Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

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英霊の聲(憂国)

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)
英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫) [文庫]
著者:三島由紀夫
評価:A*

本作は、『英霊の聲』『憂国』『十日の菊』の三篇を収めたものだが、『憂国』の一編が他の二つを圧倒しているように感じられる。
因みに『憂国』は、『英霊の聲』『花ざかりの森・憂国』の二つに収録されている。

憂国

『花ざかりの森・憂国』の巻末解説は三島自身によって書かれているが、『憂国』については、
・・・
憂国』は、物語自体は単なる二・二六事件外伝であるが、ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福であると云ってよい。しかし、悲しいことに、このような至福は、ついに書物の紙の上にしか実現されえないのかもしれず、それならそれで、私は小説家として、『憂国』一編を書きえたことを以て、満足すべきかもしれない。かつて私は、「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」と書いたことがあるが、この気持には今も変わりはない。
・・・
とある。三島の自信作だけあって、わずか40ページ足らずの間に脳汁が頭の中に充満する。
主人公は男前とベッピンというまさに自分好みのチョイス(三島作品は理想的すぎるくらいが普通だよね)。
三島の美麗な筆致で、中尉と麗子夫人との官能的な愛の営みが、そしてそのあとに訪れる凄惨な切腹が描かれる。特に後半は1ページあたり10回くらい脳汁が出る。受け止めきれないほどの作者の狂気にあてられると同時に、繰り広げられる非現実な行為のなかにふしぎな現実感をみる。

横たわった中尉は自分の腹にそそがれる妻の涙を感じて、どんな激烈な切腹の苦痛にも堪えようという勇気を固めた。
こうした経緯を経て二人がどれほどの至上の歓びを味わったかは言うまでもあるまい。中尉は雄々しく身を起こし、悲しみと涙にぐったりした妻の体を、力強い腕に抱きしめた。二人は左右の頬を互いちがいに狂おしく触れ合わせた。麗子の体は慄えていた。汗に濡れた胸と胸はしっかりと貼り合わされ、二度と離れることは不可能に思われるほど、若い美しい肉体の隅々までが一つになった。麗子は叫んだ。高みから奈落へ落ち、奈落から翼を得て、又目くるめく高みまで天翔った。中尉は長駆する連隊旗手のように喘いだ。……そして、一トめぐりが終わると又たちまち情意に溢れて、二人はふたたび相携えて、疲れるけしきもなく、一息に頂きへ登って行った。
ありがとうございました!!!

●英霊の聲

表題作だが、なんか、よく、わかんな~い。

●十日の菊

三島の劇作家としての才能を感じさせる。『サド侯爵夫人』にも興味がある。