Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

ふぉん・しいほるとの娘

著者:吉村昭
評価:B

【粗評】
アキラ史上最長クラスの長編。厚い。長崎の夏よりも厚い。
お滝さん-お稲さん-高子さんの薄幸女三代(比率 1.95 : 8.00 : 0.05)と、彼女たちを翻弄した時代を詳細なデータを交え緻密に描く。
ぺルリ提督来航以降は展開が高速化。激動の時代を感じられるぞ。 

ハーフのシングルマザーにして日本初の女医となったおイネさん。
彼女には青春などなかった。長崎を離れ宇和島で岡山で修行。
運命に翻弄され、多くの人に先立たれ、気づいた時にはもう時代に置き去りにされていた。
医学・自然科学のマルチプレイヤーだった日本偏執狂のしいほると先生も、三十年の間に、ただのカワイソウなジイさんに成り果てた。

悲しさつらさに彩られた1300ページだった。
主人公たちの存在感は薄めで、むしろ彼女たちをとりまく時代が記憶に残る。
なぜなら、その「時代」という舞台は、著者の挿入した膨大な情報でリアリティを獲得しているから。
長崎の風景・慣習、蘭学者・医師の系譜、異国船来航の記録などがそれ。