坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫) [文庫]
著者:司馬遼太郎
評価:A
“楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前のみを見つめながらあるく。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂を上ってゆくであろう”
司馬遼太郎がものした大作。構想・執筆に10年の月歳月を要したという。
膨大な文献を一編の物語に纏め上げる著者の力技には、感服せざるを得ない。
「話が脇道にそれた」「話を、もどす」「このことは、すでにのべた(ふれた)」「要するに」などの言葉を免罪符に、脱線を繰り返す著者。この脱線が上手いこと物語を重厚なものにならしめている。凡庸な作家ならこうはいくまい。
綱渡りにつぐ綱渡りでどうにかこうにか日露戦争を戦い抜いた日本。
3000にわたる頁は明治の肉体であり、紙面のインクは明治の血潮である…。
主人公はご存じ、秋山好古・真之の秋山兄弟と正岡子規。
主な主題が日露戦争で、登場人物がほとんど軍人である中に、正岡子規を主人公のひとりに据えた点は非常に画期的であった。ただし子規は早々に物語から消える。
その他多数の明治人が登場する。児玉源太郎(東郷と共に実質後半の主人公)、大山巌、乃木希典、東郷平八郎、山本権兵衛ら陸海軍の諸将、伊藤博文、桂太郎ら宰相、高浜虚子、川東碧悟桐ら文人、さらにはステッセル、クロパトキン、ロジェストウェンスキー、李鴻章、ウィッテ、T. ルーズベルトなど外国人も…。同時代人はほぼ網羅したのではないかと思われるほどだ。
司馬史観でおなじみ、従軍経験を有する著者は将帥の器を重視する。それは合理性とも言いかえてよい。合理性なき将帥は、著者に「無能」認定される。
日本は戦勝に驕り、昭和期には合理性を欠いた「無能」な上級軍人が跋扈した。著者とともに歴史の不思議を思う。
著者:司馬遼太郎
評価:A
“楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前のみを見つめながらあるく。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂を上ってゆくであろう”
司馬遼太郎がものした大作。構想・執筆に10年の月歳月を要したという。
膨大な文献を一編の物語に纏め上げる著者の力技には、感服せざるを得ない。
「話が脇道にそれた」「話を、もどす」「このことは、すでにのべた(ふれた)」「要するに」などの言葉を免罪符に、脱線を繰り返す著者。この脱線が上手いこと物語を重厚なものにならしめている。凡庸な作家ならこうはいくまい。
綱渡りにつぐ綱渡りでどうにかこうにか日露戦争を戦い抜いた日本。
3000にわたる頁は明治の肉体であり、紙面のインクは明治の血潮である…。
主人公はご存じ、秋山好古・真之の秋山兄弟と正岡子規。
主な主題が日露戦争で、登場人物がほとんど軍人である中に、正岡子規を主人公のひとりに据えた点は非常に画期的であった。ただし子規は早々に物語から消える。
その他多数の明治人が登場する。児玉源太郎(東郷と共に実質後半の主人公)、大山巌、乃木希典、東郷平八郎、山本権兵衛ら陸海軍の諸将、伊藤博文、桂太郎ら宰相、高浜虚子、川東碧悟桐ら文人、さらにはステッセル、クロパトキン、ロジェストウェンスキー、李鴻章、ウィッテ、T. ルーズベルトなど外国人も…。同時代人はほぼ網羅したのではないかと思われるほどだ。
司馬史観でおなじみ、従軍経験を有する著者は将帥の器を重視する。それは合理性とも言いかえてよい。合理性なき将帥は、著者に「無能」認定される。
日本は戦勝に驕り、昭和期には合理性を欠いた「無能」な上級軍人が跋扈した。著者とともに歴史の不思議を思う。