Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

おろしや国酔夢譚

おろしや国酔夢譚 (文春文庫 い 2-1)
おろしや国酔夢譚 (文春文庫 い 2-1) [文庫]
著者:井上靖
評価:B

これ、「おろしや国」の「酔夢譚」なのね。「おろしや」「国酔」「夢譚」という謎の切り分け方をしとったよ。「おろしや」って何かとずっと思っていたけどようやく謎が氷解。
大黒屋光太夫パイセンたちを襲う、涙あり涙あり谷あり谷ありの波瀾の運命。
伊勢を出発し、江戸までの海上輸送中に漂流してアリューシャン列島に漂着。ついでカムチャッカ半島、さらに広大な露国をオホーツクからペテルブルグまで制覇。10年かけてようやく日本に帰還。…夢だ。笑うしかねえ。
漂着した所で生きて行くなんて、コミュ力あるとかないとかいう次元の話じゃないよね。コミュ力振り絞らないと生きてけないもんね。中でも、異国の女を引っかけてしまう新蔵のコミュ力は世界最強クラスだと思われる。
Javaさんなら間違いなく腹こわしてまっさきに異国に骨埋めてたわ。それ以前に漂流中に餓死してたわ。

次々に減っていく仲間たち。さりとて団結が深まるという単純なことにはならず、生き残った者も帰国か残留かで分裂する。17人中12人が死亡。2人残留。3人帰国(1人は江戸到達前に死亡)。やっとこさ帰国できた光太夫パイセンを待っていたのはあまりにも非情な現実だった。

“この夜道の暗さも、この星の輝きも、この夜空の色も、この蛙や虫の鳴き声も、もはや自分のものではない。確かに曾ては自分のものであったが、今はもう自分のものではない。前を歩いていく四人の役人が時折交している短い言葉でさえも、確かに懐かしい母国の言葉ではあったが、それさえももう自分のものではない。自分は自分を決して理解しないものにいま囲まれている。そんな気持だった。自分はこの国に生きるためには決して見てはならないものを見て来てしまったのである。”

本作発表以降に出てきた文献によると、帰国者の扱いは作中の描写よりゆるかったらしいのでちょっとほっこり。
シベリア‐アラスカ間が100km程度と意外に近いことや、ラックスマンパパがイケイケの学者だったことも初めて知りました。