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Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

独ソ戦

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

【概要】
著者(監督):大木毅

通常戦争・収奪戦争・世界観戦争(絶滅戦争)の融合体であった独ソ戦を大づかみする。戦争の経過や個々の戦略・戦術を追う戦記物というよりも、戦争に付随した収奪性・絶滅性の度を越えた凄惨さに光を当てているか。ソ連軍は数でゴリ押ししていた印象だが、フィンランド冬戦争やドイツとの死闘を経て戦略性を大きく成長させた模様。


【詳細】
<目次>

・はじめに 現代の野蛮
・第一章 偽りの握手から激突へ
  第一節 スターリンの逃避
  第二節 対ソ戦決定
  第三節 作戦計画
・第二章 敗北に向かう勝利
  第一節 大敗したソ連
  第二節 スモレンスクの転回点
  第三節 最初の敗走
・第三章 絶滅戦争
  第一節 対ソ戦のイデオロギー
  第二節 帝国主義的収奪
  第三節 絶滅政策の実行
  第四節 「大祖国戦争」の内実
・第四章 潮流の逆転
  第一節 スターリングラードへの道
  第二節 機能しはじめた「作戦術」
  第三節 「城塞」の挫折とソ連軍連続攻勢の開始
・第五章 理性なき絶対戦争
  第一節 軍事的合理性の消失
  第二節 「バグラチオン」作戦
・終章 「絶滅戦争」の長い影


<メモ>

〇桁違いの人的被害

 ソ連戦闘員:867~1140万名

 民間人(軍事行動・ジェノサイド):450~1000万名

 民間人(疫病・飢餓):800~900万名

 ⇒死者だけで2700万名(vs.当時の総人口1億8879万)

 

※ドイツはWWⅡ全体で444~532万+150~300万名

(vs.当時の総人口6830万)

  

〇総括

独ソ戦においては、北はフィンランドから南はコーカサスまで、数千キロにわたる戦線において、数百万の大軍が激突した。戦いの様態も、陣地に拠る歩兵の対陣、装甲部隊による突破進撃、空挺作戦、上陸作戦、要塞攻略等々、現代の陸戦のおよそあらゆるパターンが展開され、軍事史的な観点からしても、稀な戦争であった。

 

「世界観戦争」としての独ソ戦は、純軍事面のみを論じたところで、その全貌をつかめるものではない。政治、外交、経済、イデオロギーの面からもみる必要があろう。そこで、本書では、こうした側面についても、随所に織りまぜて論じることにする。人類史上最大にして、もっとも血なまぐさい戦争を遺漏なく描ききることは、このような小著では、もとより不可能であろう。けれども、筆者の試みが、未曾有の戦争である独ソ戦を「人類の体験」として理解し、考察する上での助けとなることを期待したい。

 

〇本書の意義

本書は、こうした状況に鑑み、現在のところ、独ソ戦に関して、史実として確定していることは何か、定説とされている解釈はどのようなものか、どこに議論の余地があるのかを伝える、いわばソ戦研究の現状報告を行うことを目的とする。日本においては、何よりもまず、理解の促進と研究の深化のためのスタートラインに立つことが必要かつ不可欠であると考えるからだ。

 

日本で独ソ戦をテーマとした文献は、ほとんどアカデミシャンが読むだけの専門書と、一般向けの戦記本(一九七〇年代の水準にとどまったものが少なくない)に二分された股割き状態にある。そこに、欧米で進められてきた、学問としての戦史・軍事史の成果を踏まえた独ソ戦史を提示するのは、おおいに意義のある仕事と思われた。

 

〇戦争の三側面

 ドイツの戦争は、対ソ戦に至る前から、通常の純軍事的な戦争に加えて、すでに「収奪戦争」の性格を帯びていた。とはいえ、ドイツの西欧諸国に対する戦争は、比較的にということではあるが、捕虜取り扱いにおける戦時国際法の遵守や非戦闘員の保護など、「通常戦争」の性格を残してはいた。ただし、金品や美術品の略奪、フランス軍の植民地部隊からった捕虜の殺害なども皆無ではない。ポーランドユーゴスラヴィアなど、ナチスの眼からた「劣等人種」の国々に対しては、人種戦争の色彩が濃厚になった。

 

ヒトラーの宿願であった対ソ戦においては、帝国主義的収奪戦争に加えて、イデオロギーに支配された「世界観戦争」、具体的には、ナチスが敵とみなした者への「絶滅戦争」が、全面的に展開されることになる。

 

独ソ戦は、いわば「通常戦争」「収奪戦争」「絶滅戦争」の三つの戦争が重なり合って遂行された、複合的な戦争だったといえよう。しかも、対ソ短期決戦の挫折と戦局の悪化にともない、「収奪戦争」と「絶滅戦争」の色彩はいよいよ濃厚になり、「通常戦争」の基本にあった軍事的合理性をも押しのけていくのである。

 

〇戦略

「バルバロッサ作戦開進訓令」が下達された。これらは、モスクワか、それ以外の目標かという優先順位のあいまいさ、実施部隊が強いられる過剰な負担、兵站の困難など、さまざまな欠陥を抱えたものであった。

 

まず、戦争目的を定め、そのために国家のリソースを戦力化するのが「戦略」である。作戦術は、右の目的を達成すべく、戦線各方面に「作戦」、あるいは「戦役」(正確な軍事用語としては、一定の時間的・空間的領域で行われる、戦略ないし作戦目的を達成しようとする軍事行動を意味する)を、相互に連関するように配していく。個々の作戦を実行するに際して、生起する戦闘に勝つための方策が「戦術」である。

 

「バルバロッサ」や「青号」が示したように、作戦・戦術次元ではソ連軍に優越していたドイツ軍であったが、こうした、戦略に沿ったかたちで作戦を配置するということは、ついにできなかった。ドイツ軍指導部には、作戦次元の勝利を積み重ねていくことで、戦争の勝利につなげるとの発想しかなかったのだ。したがって、ソ連軍は、人的・物的資源といったリソース面のみならず、用兵思想という戦争のソフトウェアにおいても、優位に立っていたのである。

 

〇ドイツの状況

ヒトラーの掲げる人種主義は、ドイツ社会の分裂を、ひとまず糊塗する作用をおよぼしていた。都市と農村、ホワイトカラーと労働者、雇用主と被雇用者等、利害の対立は現実に存在していた。しかし、健康なドイツ国民で、ゲルマン民族の一員であれば、ユダヤ人だけじめとする「劣等人種」、社会主義者精神病者といった「反社会的分子」に優越しており、ゆえに存在意義を持つという仮構は、そうした溝を覆い隠していく。

 

ナチス・ドイツは、占領下のポーランド(ポーランド総督府)、仏領マダガスカル、また対ソ戦開始後はロシアの一部と、ユダヤ人を大量移住させる先を探しもとめた。しかし、そのいずれもが破綻した結果、 システマティックな絶減政策へと舵を切っていく。

 

レニングラードスターリングラードの戦い、カティンの殺戮、ドイツになだれ込むソ連軍など、おぞましさがギュウギュウに詰め込まれているよ。

 

 

<リンク>

gendai.ismedia.jp

 

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