まさかのファンタジー。登場人物がみんなボケ気味で、語り口も時系列が不明瞭なせいか、たびたび猛烈な睡魔に襲われた。カズオ先生のもやもやした文体も瞼を重くする。
主なトピックは老夫婦の出立、戦士と少年との出会い、兵士との戦い、夜襲と獣退治、妖精退治、騎士と戦士の戦闘、竜殺しなど。映画化するといい分量かもしれない。忘却の上に成る平和か、記憶がもたらす愛憎か。もしくは恩讐の彼方に平和を築くか。
【詳細】
鬼や竜、アーサー王の騎士、そして健忘の霧が覆う大ブリテン島。
記憶がなくても生きていけるが、記憶がなければ生きているとは言えない。忘れたほうがいいものと忘れてはいけないもの。ブリトン人/サクソン人に代表される民族間の対立。そういったことが描かれている。
詳しくは巻末の解説を読んでくれ。
「あなたの記憶がそうなら、それでいいのではないかしら、アクセル。この霧があるかぎり、どんな記憶も貴重ですもの。逃さないよう、しっかりとどめておかないと」
「悪い記憶も取り戻します。仮に、それで泣いたり、怒りで身が震えたりしてもです。人生を分かち合うとはそういうことではないでしょうか」
「おまえとわたしは、懐かしい記憶を取り戻したくてクエリグの死を望んだ。だが、これで古い憎しみも国中に広がることになるのかもしれない。二つの民族の間の絆が保たれるよう、神がよい方法を見つけてくださることを祈るしかないが、これまでも習慣と不信がわたしたちを隔ててきた。昔ながらの不平不満と、土地や征服への新しい欲望ーーこれを口達者な男たちが取り混ぜて語るようになったら、何が起こるかわからない」
「エドウィン、わたしたち二人からのお願い。これからも、わたしたちを忘れないで。あなたがまだ少年だったころ、老夫婦と友達になったことを思い出して」
「わたしはな、お姫様、こんなふうに思う。霧にいろいろと奪われなかったら、私たちの愛はこの年月をかけてこれほど強くなれていただろうか。霧のおかげで傷が癒えたのかもしれない」