【概要】
著者(監督):服部龍二
『文明が衰亡するとき』でおなじみ高坂の評伝。戦後政治史を縦糸に、高坂の精力的な活動を横糸に展開する。
大学教授としての研究と指導、政治ブレーンとしての活動、雑誌への寄稿やテレビ出演、多忙な生活を送っていたようだ。権力には近いが阿らない、気骨がある人だったみたい。
参考文献の量に引く。雑誌や論文はもちろん、テレビ番組、学生新聞、高坂文庫の赤下線部まで調べたりと膨大な労力を費やしたことがうかがえる。調べるほうも調べられるほうも。学者はこうでなくっちゃね。
【詳細】
<目次>
序章 父・高坂正顕と二人の恩師―幼少期から学生時代まで
第1章 二八歳の論壇デビュー―「現実主義者の平和論」
第2章 『宰相 吉田茂』と『国際政治』―三つの体系
第3章 佐藤栄作内閣のブレーン―沖縄返還からノーベル平和賞工作へ
第4章 「三角大福中」の時代―防衛政策と『古典外交の成熟と崩壊』
第5章 国際政治の地平と中曽根康弘内閣―文明論と「日本異質論」
第6章 冷戦終結から湾岸戦争へ―「道徳は朽ち果てる」
第7章 日本は衰亡するのか―「人間の責任」
終章 最期のメッセージ―四つの遺作
<メモ>
- 高坂、京都学派の系譜に連なる家系で、糺の森あたりに住んでいた模様。「ちょっと待っててな」「そういう考え方もあるわな」などの京都弁が効く。
- 「父が子に、彼が一生を賭けて来たものについて、自信に満ちて語った」ことや、弟子「に対し親切に肩入れする」こと、「寸暇を惜しんで執筆を続けた」こと、そういったところは見習いたい。
『国際政治』
「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である。したがって、国家間の関係はこの三つのレベルの関係がからみあった複雑な関係である」
「私は国際政治を基本的に力の闘争として捉え、国際政治における力の役割を重要視する意味において現実主義者であり、国際政治における道義や価値をより重要視する理想主義者を批判し、それと対話を交わすべきだと思った」
「戦争はおそらく不治の病であるかもしれない。しかし、われわれはそれを治療するために努力しつづけなくてはならないのである。つまり、われわれは懐疑的にならざるをえないが、絶望してはならない。それは医師と外交官と、そして人間のつとめなのである」
著者がチョコっと高坂の授業を受けているのが、筆致に力をこめさせているのかも。
高坂の死は、総合的な魅力ある学問としての国際政治学の死であった。
<参考>
<動画>