【概要】
著者(監督):松沢裕作
このような大きな変化の時代の、そのさなかに自分が生きていたら、とても不安だっただろうということです。
競争社会と自己責任論の明治社会を生きた市井の貧しい人々。彼らが「通俗道徳のわな」に陥っていたことを指摘する。「自己責任」で片付けられがちな現代に通ずる内容で興味深い。
【詳細】
通俗道徳をみんなが信じることによって、すべてが当人の問題にされてしまいます。その結果、努力したのに貧困に陥ってしまう人たちに対して、人びとは冷たい視線を向けるようになります。そればかりではありません。道徳的に正しいおこないをしていればかならず成功する、とみんなが信じているならば、反対に、失敗した人は努力をしなかった人である、ということになります。経済的な敗者は、道徳的な敗者にもなってしまい、「ダメ人間」であるという烙印をおされます。さらには、自分自身で「ああ自分はやっぱりダメ人間だったんだなあ」と思い込むことにもなります。
「通俗道徳のわな」が、リアルなわなではなく、人間が自分でつくって、自分ではまり込んだ仕組みにすぎないことーーそのわなに気が付くことは、それ自体がわなから逃れるための、欠かせない一歩です。