Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

黄金の国の光と陰

黄金の国の光と陰―インカ帝国興亡の謎 (アリアドネ古代史スペクタクル)

【概要】
著者(監督):M・スティングル 訳:坂本明美

マチュピチュ旅で読む。マチュピチュの風か水か砂塵の一分子くらいは付着しているはず。インカ帝国の歴史・地理・社会制度・宗教・文化などに関し一通り網羅している。達意の訳で読みやすい。ローマ帝国と同様、インカ帝国繁栄の本質は優れた組織力と周到な制度設計にあった。それにしても安定で物質的な不足はないが窮屈そうな暮らしだなあ。ただその時代にもひとつの幸福の類型があったに違いない。


【詳細】

建国神話からアタワルパ大暴れまでの歴史はもとより、インカ帝国のあれこれを記載。インカ入門書として好適か。

ローマに比肩しうる組織力南アメリカ大陸西で最適化を遂げたインカ帝国だったが、ユーラシア大陸からの『銃・病原菌・鉄』には勝てず。

帝国内に張り巡らされた物流・情報ネットワーク、物質的満足と引き換えの監視社会、侵略にも生き残ったケチュア語、インカ王たちの王道・覇道、人身御供の意外な少なさ、ジャガイモ・コカ無双、リャマ姦梅毒起源説など見所は多い。ただ、タイトルは「影」のほうがいいと思う。

 

インカ社会は必ずしも平和ではなかった。現代人さえ驚く華やかさは、インカ社会の最下層に属する住民たちの汗と血と涙の結晶だった。王とは対照的に、庶民は財産と呼べるものをほとんど持たず、自由もほとんどなく、労役など多くの義務を課せられていた。しかしそうした庶民こそが、インカ王の権力の源だった。太陽の息子の帝国は数々の奇跡を生んだが、自由で平等な社会だけは作れなかった。これこそ帝国のシンボルである黄金の太陽にのしかかる重い影だったといえよう。

 

一般にアイユ(村)の構成員は、兵役とかミタと呼ばれる労役に従事する時は例外として、アイユに結びつけられて暮らし、生涯を農業生産に捧げるよう運命づけられていた。しかもその労働の成果は、最終的にはすべてインカ王とその一族に提供されるのが帝国の労働の基本原理になっており、極言すれば、農民は生産のために生かされているといった状態だった。

 

インカ族が戦争に強かったのは、単に兵士の数が多かったからだけではなく、組織力に優れたインカ族が軍という組織を見事に機能させたからにほかならない。行政組織の運用に十進法を採用し、各種の統計を正確に把握していたようで、いざという時、プリク(家長)たちを数千、数万の単位で短期間に動員し、戦争に投入できたのだ。