Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

立原道造詩集

立原道造詩集 (岩波文庫)

著者(監督):立原道造 編:杉浦明平

【概要】

風と花と雲と小鳥をうたった夭折詩人のセンチメンタル・ジャーニー

仄かで繊細で優しくて、そして淋しくて。未刊や草稿が含まれるため似たようなものが多く、ちょっと飽きるかも。量が乏しくなりがちなのは早逝者の宿命か。

 

【詳細】

これの拡張版。

著者曰く、

「僕は風と花と雲と小鳥をうたつてゐればたのしかつた。詩はそれをいやがつてゐた」(『Ⅱ 詩は』)。

「ほとばしれ/千人の胸へ/しつかりと掴む胸へ」(『灼ける熱情となつて』)。

「誰でもの胸へ ほんたうのことを叩きこみたい」(『僕は三文詩人に』)。

「くやしみは僕を燃やすがよい。だが、歌、おまへはうたへ。」(『僕のなかを掠めるものは』)

優しさの中に熱情がある。光がある。

 


『村の詩 朝・昼・夕』

郵便配達がやって来る
ポオルは咳をしている
ピルジニイは花を摘んでます
きっと大きな花束になるでしょう
この景色は僕の手箱にしまいましょう


『わかれる昼に』

何もみな うっとりと今は親切にしてくれる
追憶よりも淡く すこしもちがわない静かさで
単調な 浮雲と風のもつれあいも
きのうの私のうたっていたままに


『のちのおもいに』

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもい
忘れつくしたことさえ 忘れてしまったときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであろう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くずにてらされた道を過ぎ去るであろう


『Ⅵ 朝に』

傷ついた 僕の心から
棘を抜いてくれたのは おまえの心の
あどけない ほほえみだ そして
他愛もない おまえの心の おしゃべりだ


『晩秋』

すくなかったいくつもの風景たちが
おまえの歩みを ささえるであろう
おまえは そして 自分を護りながら泣くであろう


『Ⅹ 夢みたものは……』

夢みたものは ひとつの幸福
ねがったものは ひとつの愛
山なみのあちらにも しずかな村がある
明るい日曜日の 青い空がある


『歌ひとつ』

昔の時よ 私をうたわせるな
慰めにみちた 悔恨よ
追憶に飾られた 物語よ
もう 私を そうっとしておくれ


『草に寝て 六月の或る日曜日に

私たちの 心は あたたかだった
山は 優しく 陽にてらされていた
希望と夢と 小鳥と花と 私たちの友だちだった

 

『 夏花の歌 その一』

それはあの日の夏のこと!

いつの日にか もう返らない夢のひととき

黙った僕らは 足に藻草をからませて

ふたつの影を ずるさうにながれにまかせ揺らせてゐた

 

『Ⅱ 虹の輪』

あたたかい香りがみちて 空から

花を播き散らす少女の天使の掌が

雲のやうにやはらかに 覗いてゐた

おまへは僕に凭れかかりうつとりとそれを眺めてゐた

 

『天の誘い』

人は誰でもがいつもよい大人になるとは限らないのだ。美しかつたすべてを花びらに埋めつくして、霧に溶けて。

 

さやうなら

 

『午後に』

しかし 世界は 私を抱擁し

私はいつしか 別の涙をながしてゐた

甘い肯定が 私に祈りをゆるすために

 

『初夏』

街の地平線に 灰色の雲が ある

私の まはりに 傷つきやすい

何かしら疲れた世界が ただよつて

ゐる 明るく 陽ざしが憩んでゐる

 

『麦藁帽子』

八月の金と緑の微風のなかで

眼に沁みる爽やかな麦藁帽子は

黄いろな 淡い 花々のやうだ

甘いにほひと光とに満ちて

それらの花が 咲きそろふとき

蝶よりも 小鳥らよりも

もつと優しい愛の心が挨拶する

 

メヌエット

夜空の星と 置洋燈の またたきが

祝つてくれた ひとつの ねがひ

優しい鳥 優しい花 優しい歌

 

『昨日』

消えた言葉を追ふのはよさう

消えた言葉は私のものだ

どこに どこに やさしい言葉

 

『田中一三に 2』

降るやうな光のなかで おまへと並んで

その日はぼんやりと歩きつづけた

落葉する桜並木のアーチの下を

ながれる青い疏水のほとりを

 

 

『優しき歌』

それを 私は おもひうかべる

暑いまでに あたたかかつた 六月の叢に 私たちの

はじめての会話が 用意されてゐたことに

白銀色に光つた 青空の下のことを