著者(監督):黒澤明
【概要】
コミュ障気味の課長が、余命いくばくもないことを知り、豪遊し老いらくの恋にふけり、やがて公園建設に猛進する。回想シーンの多用が黒澤映画の静と影の部分を担っている。
【詳細】
前観たときは寝てしまったが、改めて観ると面白い。
胃がんを遠回しに宣告されたさえない老公務員の、人生の一瞬の煌めき。
「彼は生きているとは言えない」
「この男は何もしていない このイスを守ること以外には」
ナレーションがいちいち辛辣。
待合室でしっかり前振りされたあとに、
「軽い胃潰瘍」。
その言葉と同時に、服をバサッと落とす挙動不審な感じが主人公の人柄を思わせる。眼が正直。
息子夫婦登場。
オヤジの悪口言ってたら、暗闇にしょんぼりオヤジがいた。
妻の仏壇を眺めているとオッさんの回想がスタート。
①前を行く霊柩車を見つめながら、息子が「お母さんが行っちゃうよう」
つっかえ棒にしたバットを見て、②野球の試合③盲腸④出征時、「みつおー!」を連呼
いろいろなみつおの思い出が甦る。
視点は移り、壁にむなしく飾られた表彰状。
皆勤賞も今では何になろう。よし、無断欠勤しよう。
慣れてないので酒も金も使い方がわからない。
呑めないけど酒屋に頑張っていたら三文文士登場。
オッさんが死を前に開眼したと勝手に感動し、
パチンコ、ジャズバー、ストリップ、ダンスなど歓楽街を連れ回す。
目が座っていてるが涙は流れる。命短し恋せよ乙女。
翌朝とぼとぼ歩いていると同僚の女子が。会社辞めたんだって。
おうちまでついて来て息子夫婦に勘違いされる。
靴下買ったり、あだ名トークで盛り上がったり、パチンコ、スケート、遊園地、映画に行ったりと、束の間の春を満喫する。
ボソボソ声と嬌声が交錯する中、鍋をつつく。重たい口を開きわが身の不幸を呪う。
「わしがなぜミイラになったかと言うと…」
「生まれたのはアカンボのせいじゃないわよ」
たしかに。
出勤すると、うず高く紙が積まれた未決箱が。
会社に行っても老いらくの恋はやめられない。何かしてあげたいという必死さがやや不気味。
なにか作ってみたらと女に言われ、わしにも何かできる! と決意したところでハピバ!
不衛生な場処に公園を立てようと、死んでいた男は再び動き出した。
すると。「~か月後、その男は死んだ」。
突然の終幕。
場面は変わって、オッさんのお葬式。ここからが本番だ。
死の数か月前の故人の変わりようについて、好き勝手推測する参列者。
酔ったオッサンたちが渡辺さんの行動を振り返る中、一人気を吐く男が。
日参して現場を視察し、ブランコを楽しそうに漕いでいたオッさんの姿が少しずつ明らかになっていく。
彼らは明日にはもう渡辺さんのことを忘れているだろう。
そんな日常に残ったのは彼の公園だけ。
<あらすじ>
- 陰鬱になりがちな設定だが、テンポが良い。黒澤映画に回想(時間の逆行)の多用は珍しい。
- 七侍メンバーちらほら。ただし映画の色的に三船は出ない。
- チョイ役の役者でも印象的。作品世界に生きている感じはすばらしい。
- 志村のオッさん挙動不審な感じがすばらしい。コミュ障「その…」「あの…」「つまり…」くぐもったボソボソオドオド声は、女曰く、「雨だれみたい」。
- 役所のセクショナリズム、役所のスタンプラリー、部署たらいまわしで1周しちゃうなど、お役所仕事を皮肉交じりに描く。
- 国土開発、公害問題、核家族化など当時のテーマが窺えて興味深い。